「白いメリーさん」(中島らも)

絶妙な仕掛けが張り巡らされています

「白いメリーさん」(中島らも)
(「日本文学100年の名作第8巻」)
 新潮文庫

「白いメリーさん」(中島らも)
(「白いメリーさん」)講談社文庫

巷間に流布している都市伝説を
レポートする
フリーライターの「私」は、
娘の由加から聞いた
「白いメリーさん」の噂に
興味を覚える。
早速、由加の友達数人から
目撃談を聞き取り調査するが、
その後、由加の様子がおかしい。
ある夜…。

新潮文庫版で35頁。
32頁までは「噂話」が
いかにいい加減な形で伝播し、
信用ならないものであるかを
「私」自身が納得する形で
記されているため、
読み手もそういう小説なのだと
油断しきったところを、
最後の3頁で背筋も凍るような
恐怖に陥れられます。
完全なホラー小説とわかったときには
時すでに遅く、
物語は幕を閉じてしまうのです。
ジャンルに囚われない幅広い作品を
発表している中島らものは、
絶妙な仕掛けを張り巡らせて
本作品を完成させています。

本作品の絶妙な仕掛け①
ホラーを強烈に否定し
読み手の油断を誘う

前述したように、約9割が
ホラーの否定に費やされています。
ガセネタ続きのたれ込みの実態の
描写から始まり、
都市伝説の伝わり方の実際例を披露し、
最後は聞き取り調査によって、
目撃のすべてが「嘘」であることを
提示していきます。
娘の由加が話した「白いメリーさん」
(全身真っ白、白髪の鬘、
白粉様の化粧、白い衣裳を纏った
おばさん、恐怖というよりも滑稽)も
他愛のない噂話であることが
示されていくのです。
読み手は終盤に差しかかるまで、
まさかホラーとは露ほどにも考えない
絶妙な仕掛けとなっているのです。

本作品の絶妙な仕掛け②
笑える時事ネタを配し
読み手の笑いを誘う

発表当時の新鮮な(?)
おもしろネタが満載です。
今の若い人が読んでもわからない、
当時を知る者でなければ理解できない
ネタが鏤められているのです。
「人面魚」「口裂け女」
「なんちゃっておじさん」
「幸田シャーミン」「Mの幼女殺害事件」
「泳げタイヤキ君の子門真人」など、
80年代90年代を賑わした
時事ネタばかりです。
ついつい頬が弛んでしまうのですが、
それは巧妙な罠なのです。

本作品の絶妙な仕掛け③
一気にホラーへ突入し
読み手を恐怖に誘う

そしてラスト3頁で
一気に恐怖に突き落とされます。
「私」の目の前に、
「白いメリーさん」が現れるのですが、
それだけではありません。
ぜひ読んで確かめてください。

本作品が発表されたのは1991年。
バブルが弾け、日本全国に急速に
不安が広がった時期に重なります。
世相を鋭く反映した
作品であるといえるでしょう。
その反面、インターネットが普及し、
噂話が瞬く間に世の中を
駆け巡ってしまう現代では
理解が難しい作品なのかもしれません。

〔本書収録作品一覧〕
1984|極楽まくらおとし図 深沢七郎
1984|美しい夏 佐藤泰志
1985|半日の放浪 高井有一
1986|薄情くじら 田辺聖子
1987|慶安御前試合 隆慶一郎
1989|力道山の弟 宮本輝
1989|出口 尾辻克彦
1990|掌のなかの海 開高健
1990|ひよこの眼 山田詠美
1991|白いメリーさん 中島らも
1992| 阿川弘之
1993|夏草 大城立裕
1993|神無月 宮部みゆき
1993|ものがたり 北村薫

(2022.3.3)

Angela Yuriko SmithによるPixabayからの画像
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